不動産売却しても社会保険料・介護保険料が上がらないパターン
今回のテーマは不動産売却と保険料です。一見すると関係ないようなこの2つですが、不動産売却による譲渡所得は、社会保険や介護保険に影響を与える可能性があります。
不動産売却益は何度も生じるものではないので、注意するのは売却の翌年の保険料です。それ以降の保険料については影響がありません。まずはそれを押さえた上で、詳しくみていきましょう。
1.不動産売却が健康保険に与える影響
「譲渡所得」とは、不動産の売却代金のことではなく下記の計算で求められる所得のことを言います。
所得税や住民税のことを考える時、この譲渡所得がしばしば登場します。
実はこの譲渡所得の影響が税金だけでなく、保険料にも及ぶことがあります。
ちなみに健康保険については厚生労働省の管轄になり、税務署での手続きでは無いのでご注意ください。
さて、譲渡所得は各種保険料にどのような影響を与えるのでしょうか?
健康保険は年齢や労働環境・扶養の有無などで、加入している保険が人によって異なります。それぞれ譲渡所得が影響を与えるもの・そうでないものがあるので、加入している健康保険の種類ごとにご紹介します。
不動産売却と会社員の健康保険料
まずは一般の会社員と関連する「健康保険」について見ていきます。これは企業などに雇用されている人の保険ですが、結論から言うと、譲渡所得があっても金額は変わりません。
譲渡所得というは通常の所得とは分けて計算します。健康保険は会社員の給与に基づく標準報酬月額から計算されており、標準報酬月額は給料以外の所得の影響を受けません。そのため、金額は変わらないということになります。
健康保険には、大手企業が独自に運営している組合健保、中小企業群のために運営される協会けんぽの2種類があります。(どちらも同じ健康保険と考えて問題ありません。)
被扶養者が行う不動産売却は注意
結論として、不動産売却による所得が大きすぎると、扶養から外れてしまうかもしれないということです。
扶養についてはよく話題になるところかもしれませんが、目安として130万円を超えて譲渡所得を得てしまうと扶養から外れ、国民健康保険に切り替わります。保険料の発生しなかった状態からの変更になるので、きちんと把握した上で売却しましょう。
不動産売却と公務員の共済保険料
共済保険は公務員が加入する医療保険になります。初めに紹介した会社員の健康保険と同様に「標準報酬月額」によって計算されるので、不動産売却益の影響で金額が大きくなることはありません。
こちらも健康保険と同様に被扶養者の不動産売却には影響がありますので、注意しましょう。
不動産売却と国民健康保険料
次に不動産売却が国民健康保険料に与える影響を見ていきます。そもそも国民健康保険は一般のサラリーマンではなくフリーランスや自営業、無職の人などが加入するものです。
国民健康保険の料金の内訳は、医療分保険料・後期高齢者支援金分保険料・介護保険料となっており、各料金は平等割(全世帯で平等負担の分)・均等割(加入人数に応じた負担分)・所得割(所得に応じた負担分)で構成されています。
今回の不動産売却に関しては「所得割」が関係しているので、こちらで詳しくみていきましょう。
所得割
この場合の所得割は前年度の所得に応じて負担することになっており、「総所得」金額等を用いて計算します。なお、控除額は33万円で、これを引いた金額に保険料率が掛け合わせます。
不動産売却で譲渡益(譲渡所得)が生じると、当然ながら所得が増えることになります。したがって不動産売却益のあった翌年の健康保険料は、普段よりも増額されることになりますので、覚えておきましょう。
なお、計算式は自治体ごとに異なるので注意が必要です。不明なことがあれば管轄の自治体に行くと相談にのってくれます。
不動産売却と後期高齢者医療保険料
75歳以上の方や条件を満たす65歳上の人は、「後期高齢者医療制度」によって支払う保険料が別途定められています。国民健康保険と同じく所得割が関わってくるので、不動産売却で得た所得の影響を受けることになります。
後期高齢者医療制度に該当する人の多くは年金が主な収入になると思います。年金は雑所得に含まれ、不動産の譲渡所得と合計して総所得を計算します。結果的に通常の所得の場合と変わりませんので、ご紹介にとどめておきます。
譲渡所得がでなければ保険料は上がらない?
譲渡所得がなければ、保険料が上がることはありません。むしろ、譲渡所得がマイナス、つまり譲渡損失がでれば所得税を減らせるかもしれません。確定申告で他の税額を減算できるかどうか、確認すると良いでしょう。
保険料が上がるかどうかは譲渡所得があるかどうかも関係します。「譲渡所得」のことでわからないことがあれば不動産会社への相談がおすすめです。
2.譲渡所得と介護保険料
介護保険制度は40歳以上が介護保険料を支払い、これを財源に介護が必要な人に対し段階的に費用を給付する制度です。実は平成30年度に大きな改正があり、不動産の譲渡所得から減算できるようになりました。不動産売却と介護保険料の関係は大きく変わったので、順番に見ていきましょう。
介護保険料の計算における譲渡所得
介護保険料は所得に応じて段階的に負担が重くなります。
介護保険料を計算するための譲渡所得について、従来は特別控除前の金額を基準価格として所得額を計算していました。
※不動産売却における特別控除とは確定申告の時に、一定の要件を満たすことで適用できるもので、最終的な納税額を小さくできます。
従来は不動産売却によって譲渡所得を得た場合に介護保険料が高額になる可能性があったということです。
譲渡所得の減算
介護保険料の負担については東日本大震災後、所有物件にとどまることができない人が物件を手放し、その翌年に重い保険料負担を強いられることになったため見直されることになりました。結果的に平成30年に介護保険制度が改正され、災害に関連する特別控除を適用できるようになったことで負担が軽くなりました。
税金についてはよく耳にしますが、意外に関係ないことも多いです。ご自身の加入する健康保険は関係あるのか、また介護保険については特別控除を適用できないのか、参考にしていただきたいと思います。